ぱるばか日誌 2017
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精子戦争
 人間は一夫一妻制なのか多夫多妻制なのか論議の分かれるところだが、論議があるというのはすなわち両方だということだろう。
 本書ロビン・ベイカー著『精子戦争』は、1996年原書刊行だからもう二十年も前に書かれた本だが、かなり面白い。
 キンゼイ・リポートやハイト・リポートより深甚な影響を与えてきた書だという。
 基本的に言うと、人間というのは、男女の生殖戦略の違いから、多彩な性行動を取っているということだ。

 生殖戦略の違いというのは、すなわち、男は多量の精子を生産・射出し、女は1個の卵子で身籠もるという違い。
 それゆえ、一面において、男はより多くの女に受精させ、女はより優れた男の精子を得ようとする。
 そして女の膣や子宮の中では、唯一の卵子に到達しようと、複数の男たちの精子が戦いを繰り広げる。
 ただし、人間のようにカップルを作る動物においては、男が他の女に手出しをしていると、その隙に自分の女に手出しされるという危険性がある。そして男にとっては女の腹の子が自分の子だという確証はない。
 また人間の子供は成長に時間がかかる。その養育には父親の助けが必要だ。男は自分の子だと思えば育児に協力的になる。
 そうした人間の特質を背景に、一夫一妻、一夫多妻、一妻多夫、多夫多妻、浮気、不倫といった、様々な性行動が生まれる。
 ま、しかし、一夫一婦制がいちばん安全で、スタンダードなカタチなんだろう。そうすれば少なくとも、両性ともに、少数ではあっても比較的確実に子孫を残せるわけだ。
 ただ動物界では、一夫一妻制は極めて少数派ではあるらしい。

 本書によると、「一夫一妻など長期の関係は、約三百万年間、人間のセクシャリティの一つの特徴だったと考えられる」。
 また、「一夫多妻制に変わったのは、わずか約一万五千年の間の農耕に依存した時代のことである」。
 そして、「都市化と工業化が始まったここ数百年の間に、一夫多妻制、あるいは何回かくりかえされる一夫多妻制への全体的な揺り戻しがおこってきた」のだそうだ。

 精子戦争は、人間のみならず、広く動物一般において繰り広げられている。
 男側には自分の精子を勝たせる戦略があるし、女側にも好きな男の精子を応援するメカニズムがある。

 その戦いにおいては、睾丸のサイズが重要だ。というのも、睾丸のサイズが戦士たる精子の生産量を左右するからだ。
 そして、精子戦争の盛んな動物種ほど、たとえば乱婚制のチンパンジーなど、大きな睾丸を具えている。本書いはく、「(平均的に)大きなペニスと睾丸を持つ集団には、(平均的に)小さなペニスと睾丸を持つ集団より精子戦争を行う男性の数が多いのだ。この説は人間の集団ではまだだが、動物の種の間では実証されている」
 そして睾丸とペニスのサイズは、「平均的に見ると、黒人は白人より大きく、白人はモンゴロイドより大きい」。

 ということは、アフリカの方が日本より精子戦争が盛んなわけだ。
 オレの乏しいアフリカ体験からしても、それは何かしら頷けるところがある。三十年ほど前、ナイジェリアのとある州都だったが、高級ホテルの前に女たちがたむろしているのだ。それも必ずしも娼婦というわけではなさそう。泊まり客の男たちは気軽にピックアップして中に入っていく。ホテルの前で婦人警官が交通整理をしていたが、それをピックアップした猛者もいた(日本人)。こうしたアフリカのオープンなセクシャリティについては、岡崎がん著『トランス・アフリカン・レターズ』が面白い。
 ヨーロッパやアメリカについては、まあ皆さんの方がよくご存知であろう。

 ここで思い出すのは、拙ブログでも二度ほど取り上げた某避妊具メーカーによる世界各国のセックス頻度と性生活満足度調査。世界各国と言っても、主にヨーロッパとアジアの国々なのだが、アジア諸国のセックス回数はヨーロッパに比べて明らかに少ない。半分ほどなのだ。特に日本は調査41カ国中、セックス回数が年45回で世界最低。最高のギリシア138回に比べると三分の一。また満足度も中国に次いで世界で二番目に低い。

 最近巷では「レス」が云々されるが、やはり日本人はあまりセックスをしないらしい。
 アフリカや欧米に比べ、精子戦争の少ない、一夫一妻制の戦略を取るケースが多いのだろう。
 ただしそれはあくまで一般的に言えばであって、中にはアフリカ的、欧米的な人もいるはずだ。そういう人々が自己の性的な遺伝的形質に添って行動すると、一夫一妻的な世間からひどいバッシングを浴びる。最近は特にそういう傾向が強いのではあるまいか。
愛(かな)しき玩具
 高橋迪雄著『ヒトはおかしな肉食動物』。
 食性の観点から見る比較人類論、ないしは比較動物論。
 タイトルから見る通り、人類は肉食動物らしい。確かに、肉や魚はウマいもんな。

 ところで、哺乳類たるアナタにとって、最初の最重要食料は、言うまでもなくおっぱいである。
 当然、本書でも、おっぱいについての考察に紙数が割かれる。
 ヒトの♀は、類人猿の中で例外的に大きな乳房を持っているそうだ。
 これは二本足歩行に関係しているという。
 著者によると、発祥以来(400万年ほど)狩猟採集生活を続けてきた人類は、群の移動中、歩きながら授乳する必要が生じた。それで乳房が大きくなった。大きければその形状が緩衝材および手懸かりとなって、多少揺れても、嬰児は乳を吸い続けることができるというわけ。ゴリラやチンパンジーは四足歩行で移動も素早いから、歩行授乳の必要もなく、ために乳房が肥大発達しなかったんだと。
 それからデズモンド・モリスの唱えた、「直立したため外性器が目立たなくなり、その代わりに発達した性的シンボル」という有名な所説も紹介される。

 著者によると、哺乳類の子は一般に平面的な顔をしているが、これは乳を吸うのに便利な適応だという。
 たしかに、仔犬も仔猫も、親たちに比べ顔の突起が少なく、まことに愛くるしい。
 いっぽうヒトは大人になっても顔が平たい。これは、生物学的に言うと幼型をとどめているということらしい。
 また、ヒトは大人になっても遊ぶが、これも「成熟したら遊ばない」という動物学的原則から逸脱している。

 真面目な生物学者である著者はこれ以上言わないが、ヒトが大人になっても幼型をとどめ平面的な顔をして、いつまでも遊んでいるということは、すなわち、大人になっても遊びで乳を吸うということだろう。
 これも本書にはないが、乳房が繁殖行動の仲立ちをするというのは、人間だけじゃあるまいか。犬や猫が交尾の前に乳くりあうなど見たこともない。
 おそらくもともと乳房に性的な意味合いは無かったであろうが、二本足歩行により目立つ場所で肥大し、大人になっても互いに遊び遊ばれているうちに、そうした方向に進化を遂げてきたのかもな。つまり、いつまでもおっぱいを吸って遊んでいる人々の方がより子孫を残し、地に満ちたということだ。(ただし母親以外のに限る)
媾合の試練
秋口を迎え、外には精霊トンボが飛び交っている。
盆過ぎに出現するのでその名がある。
淡黄色で、飛行したまま、ぜんぜん止まらないのが特徴だ。
しかし別に楽しくて飛行しているわけではない。
採餌活動なのだ。
ときどき舞い上がってくる小昆虫を捕捉する。
つれづれに、しばらく観察してみた。

どうやらトンボは、捕捉した昆虫を丸ごと全部食べ尽くすわけではないようだ。
捕まえて、数秒で獲物を落下させる。
落下物は地面で這い回っている。
それにしても、晴れ上がった昼間、トンボの遊弋する中、ノコノコ舞い上がるなど、間の抜けた虫もいるものだ。

そんな虫を三件確認したが、いずれも雄アリだ。
よく見ると、腹部が食いちぎられている。
つまり、精霊トンボは雄アリの腹部だけを食って、残りは捨てるわけだ。
腹部を失った雄アリはやがて死を迎えることになる。

それでわかった。
生殖活動だったわけだ。
雄アリには翅(ハネ)がある。
その翅でパタパタと飛び立ち、空中で女王アリと性交して、その生を終える。
女王アリとの性交、それが雄アリの唯一の存在理由だ。
飛び立たないと、生きている意味がない。
勇躍飛び立つも、相手にたどりつく前、大方はトンボの餌食になるのであろう。
今まで地を這っていた虫だ。たいした飛翔力はない。
あはれその精液は、女王アリの腹に入る前に、トンボの腹に入るというわけだ。
滋養豊富かもな。

生物界最大の試練、セックス。
人間界もそうだ。
分別盛りのオヤジがしくじるのも、たいていはコレ。
おのおの方、ご注意召されい。
書評「なぜ美人ばかりが得をするのか」
10年ほど前に書かれた本。著者はアメリカの女性心理学者。
人間の外見的魅力について、心理学・生物学・人類学・社会学等、様々な視点から分析している。
原題は Survival of the Prettiest。これは言うまでもなく Survival of the Fittest(適者生存)のもじりだ。

まあ、いろんな事が書かれてるが、ひとつ、「鬼も十八、番茶も出花」について。
女のいちばん美しいのは、十代後半から二十代前半とされる。
なぜか。
それは百万年以上にわたる不安定な採集狩猟生活の名残だという。
女が性的に成熟し、身体的にもいちばん強壮なのがこの時期。このとき子供ができると、その生存率は最も高い。
それゆえこの時期の女が、男たちにとっていちばん魅力的に映る。
しかし、農耕定住生活が始まって約一万年。人類社会は大きく変わった。
今や、十代の小娘より、三十代の女の方が、経済的にも人生経験的にも豊かで、子供の生存率もずっと上回るだろう。
にもかかわらず女たちは、十代の容貌に近づけようと、顔に白粉を塗り、唇に紅を差す。
社会の進化に人間感覚の進化が追いつかないゆえの、悲劇というか喜劇というか。
ニホンザルなど、経産婦のほうが未産婦よりモテるんだが。

あるいは、巨根伝説。
霊長類の中で身体比でいちばん巨根なのは人類だそうだ。
昆虫類の研究によると、雌が複数の雄と交わる種は、雄の生殖器が発達する。
巨根だと雌の体内でライバル精子との競争に有利に働くからだろう。
本書には書いてないが、長大だと卵子のより近くで射精が行われるし、また亀頭のカリはライバル精子を外に掻き出すためにあるという説もある。
つまり人類は一夫一婦制ではなかったということだ。(言うまでもないか)
ということは、巨根男ほど貞節にこだわらないということになるのか。
静穏な結婚生活を願う諸嬢は巨根男には気をつけたほうがいいかも!?