ぱるばか日誌 2017
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ダマシオ『感じる脳』
 現在四冊刊行されているダマシオ一般向け著書の三冊目。
 一冊目は『デカルトの誤り』(原著1994年)で、人間の意志決定における情動や感情の重要性を説く。
 二冊目は『無意識の脳・自己意識の脳』(原著1999年)で、意識や自己の起源を探る。
 そしてこの三冊目は2003年の作で、原題は『Looking for Spinoza』。「スピノザを求めて」だ。

 スピノザと言えば、17世紀オランダのユダヤ系哲学者。
 近代西洋哲学者の中で際だっていたのは、その生き様だ。大学哲学教授の職を提示されても断り、レンズ磨きを業として一生を終わる。我が母校の哲学科某教授に言わせると「ありえねー」とのこと。
 スピノザの主著『エチカ』やその生涯に触れながら、ダマシオは筆を進める。

 本書の前半は、一冊目『デカルトの誤り』の延長で、生命における情動(emotion)や感情(feeling)の意味を語る。この情動と感情の区別はダマシオ特有のものだが、平たく言えば、情動は身体のものであり、それが心に反映されたものが感情だ。この「心」というのは便宜的な言葉で、デカルト的な霊肉二元論のごときものではない。スピノザ的な「様相二元論」ないし「性質二元論」に近い。これはすなわち、心身という二つのものは、ひとつの実体の現れだという考えだ。
 有機体は、まずは身体から始まる。それゆえ身体にまつわる情動が先で、それから感情が現れる。なぜ感情が現れたかというと、有機体が進化により複雑化したからだ。内側に感情を持つ方が生存に有利だったというわけ。
 感情を持つためには、心、すなわち意識や自己が必要だ。ここはダマシオの二冊目に係わってくる。脳の進化により最終的に大脳皮質などが出現するようになると、それらの能力を最大限に発揮するためには、感情が必要になってくる。
 身体的な情動は脳内にマッピング(反映)され、そこから人は内側に感情を持つわけだが、そのあたりの仕組みはまだ解明されていないようだ。

 さて、身体から始まる様相二元論においては、身体が終われば心も終わる。すなわち人間には死が存在する。永遠の命など無いということだ。
 スピノザもそのことはよく承知していて、エチカの中で「自由の人は何についてよりも死について思惟することが最も少ない」(第4部・定理67)と述べている。「自由の人」とは「理性の指図のみに従って生活する人」だという。この「理性」とは、単なる頭ではなく、もっと深い「霊性」に類するものであろう。つまり、賢者には死の恐怖がないということだ。
 オレも四十年近く前に本書を紐解いたことがあるが、このあたりが一番印象に残っていた部分だ。スピノザのありえねー生き方を見ていると、彼自身、ホントにそうした「理性」を身につけていたのかもしれない。

 脳神経科学者としてダマシオは、当然のことながら、心ないし魂を神経生物学に還元する。それゆえ死とともに人間は終焉を迎えるわけで、そこに人間の苦悩がある。(この苦悩は人間が脳を発達させ、未来を予見し、感情移入ができるようになったからこそ出現したものだ)。そしてその苦悩は、スピノザくらいの「変人」でないと甘受できない。ただ、神経生物学の進展によって、凡人でもその苦悩を和らげられると考える。
 そのために必要なのは、まず、スピノザ的な「理性」ないし「霊性」を開発することだ。その「霊性」とは、まず第一に、有機体の「調和」すなわち「有機体が最大可能な完全性をもって機能しているという感覚」だ。そして、そこには他人に対する情愛あふれた姿勢も結びついている。オレ的に言わせると、健全な身体+ハートの機能、ということになるなろう。第二に、そこから生ずる喜びは、健全さを更に助長する。第三に、霊性を増進させる機会を作る。たとえば、科学的発見について熟慮する(これは科学的マインドを持つ人向け!?)とか、優れた芸術を経験する(著者は例としてバッハ、モーツァルト、シューベルト、マーラーの音楽を挙げる)とか。
 更に、科学や神経生物学の発展も、人間の苦悩(個人的であれ社会的であれ)を軽減するのに貢献するであろう。

 ということで、ダマシオは本書で、スピノザと関連しつつ、脳神経科学における自己の所論を、人間の幸福追求の方途へと向ける。
 最後の霊性増進の機会については、宗教の役割についても言及されるが、スピノザと同じく、組織宗教には批判的だ。瞑想もその方途となるであろうが、本書では触れられていない。
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