縁あってカンボジアのアンコールワットを訪ねる。
12世紀に造られた大規模な石造寺院だ。
三重の回廊に囲まれ、いくつもの建物が連なっている。
そうした回廊や、寺院壁面には様々な石彫レリーフが刻まれている。
その中でいちばん目を惹くのが、アプサラ(天女)像だろう。
全部で数百体あるんじゃあるまいか。
半裸像で、上半身は頭飾りや胸飾り、下半身は下帯(褌)の上に腰巻と腰飾り、そして腕輪足輪の姿。
それぞれモデルがいたようだ。宮廷の官女たちだろうか。
まず目に飛び込むのが豊満な胸乳だろう。しばしば参詣者に撫でられテカっている。ただし個体差は無い。貧乳微乳はなく、等しく真ん丸な規格品だ。このあたりは彫刻家の配慮だろうか。顔の美醜もあまりない。ほとんどが正面向きの端正な顔立ちだ。どちらにしても単調だから、だんだん目が行かなくなる。
それ以外はわりと変化に富んでいる。ポーズとか、頭飾りとか。いちばん楽しいのが髪型であろう。長い黒髪でいろんな造形を形成している。仄聞したガイド解説によると36種類あるそうだ。ヘアドレッサーが見たら参考になるんじゃあるまいか。
おそらく、明日は彫刻のモデルになるってんで、みんな気張ってキメてきたのだろう。
そこでオレは、腰巻愛好家として、天女の腰巻に注目することにした。
ヘアスタイルほどじゃないが、ある程度のバリエーションがあるようだ。
900年も前の布だから、手紡ぎ手織りであろう。
布の紋様は、型染めか、絞りか、バティックか、絣か、はたまた刺繍か、アップリケか、プリーツか⋯
一番多いのが、小さな四弁花。椿みたいな花で、花弁が四つ。これが無地の生地に規則的に配されている。このタイプが全体の8割くらいかな。残念ながら素材や色はわからない。カンボジアだからカンボウジュ(黄色熱帯多化蚕)絹布かもな。
柄はこの四弁花を含め、ほとんどが花柄で、尖った四弁花、十方手裏剣みたいな四弁花、稀に五弁花も。
二割ほど、地に縦縞や格子があしらわれる。
また、花のない縦縞もある。
そして、これはヴェールなんだろうか、無地の布もある。
人によっては、腰巻なしの下帯姿もある。これは自分で決めたのか。
そんなこんなで、オレの数えたところ、23種の布があった。劣化もあって判別できない腰巻も3〜4割ほどあったが、そう大きな違いはないだろう。
もし彩色があったとしたら、腰巻のバリエーションは髪型以上だったかも。
広大な遺跡だからな、立入できない部分もあるんだが、ほとんどの天女の腰巻はチェックしただろう。
今ごろアンコールワットの天女界でウワサになってたりしてな —
今日、へんな日本のおじさんに写真撮られてさ
え、私も
それも下の方だけ
うん、それよ⋯。ふつう、おじさんたちって上の方撮るじゃない
下半身フェチかも
もしかして腰巻フェチとか
あ、なんかそんな見方してた
業界の人かしら
かもね、だって、私たちくらいでしょう、Mテキスタイルで⋯
そうそう、わざわざあそこまで行って腰巻買うのは
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